Tuesday, May 16, 2006

蜜柑の花

 我が家から最寄駅の間にある家の塀の際に、蜜柑の木がある。
一般にフルーツとして売られている蜜柑ではなくて、おそらく厳密には地蜜柑とか小蜜柑とかいわれた「柑子」のようなものだと思う。
まぁしかしそんなことは今はどうでもいい。その蜜柑の木に花が咲くと、道にかすかな良い匂いが漂う。この時期は毎年こうだ、今年初めてこの蜜柑の花の匂いに気づいたのは昨日のこと。

 この花の良い匂いをかぐと必ず思い出す人がいる。
数年前のことだが、アルバイト先の同僚がその蜜柑の木のある家の隣あたりに住んでいた。
あるときその方に「あの角の蜜柑の木に花が咲きましたね、良い匂いがしていますね」と言うと彼女からは「私はあの匂いが苦手なんです」という返事。
驚いた、蜜柑の花の匂いが苦手な人がいるなんて!
あんなに非のうちどころがないような匂いの、どこがどういう風に苦手なのだろう?聞きたかったが丁度その時忙しくなり、なんとなく聞けずじまいだった。
親しく会話するほどの関係ではなかったので彼女とは他にどんな話をしていたのかあまり覚えていないが、この話は強烈に覚えている。人の好みって本当に千差万別なんだなぁ。

 昨日もそんなことを思い出しながら蜜柑の木の匂いにふれた、あの人はまだあそこに住んでいるのだろうか。
ふと、「さつきまつ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする」という歌が頭に浮かんだ。
さすがは業平中将、考えれば考えるほど深い歌やな。(古今和歌集では『詠み人知らず』やけど伊勢物語に出てくる以上業平の歌やろう)
件の彼女は僕の「昔の人」ではなかったし、苦手なくらいだから袖から橘の香もさせてなかった。だけど思い出すもんは思い出すよ、人の印象ってそんなもんやろう。

 僕にも、ある「香」をかげば、「昔の人の香がする」ことはある。
業平中将のように趣深いことを典雅には言えずに、ドロドロの醜い心がそのまま表れる言葉にしかできんけど…

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